Yewlimb / 蜥蜴殺しのユーリム

誰かが望遠鏡で覗いたそのときから、月は美しい女神であることをやめた。
穴だらけの岩の塊であることを知られてしまったのだ。


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「〈蜥蜴殺し〉に神性を認めねばならぬ」
こうした意見は、アリゾナ州ツーソンの議会で明確に説かれたときにはすでに一般化しつつあった。〈蜥蜴殺し〉は精霊や悪霊のたぐいだ。蛾や蝿を通じてすべての窓を覗き、すべての扉に聞き耳をたてる。もし彼の機嫌を損ねれば街に乾いた風を呼び、疫病をもたらす。少なくとも、ここの人びとはそう信じている。

科学はすでに時代遅れのパラダイムだ。神的なるものと悪魔的なるものへの強迫観念が自然の法則についての概念と混じり、科学は迷信と呪術に屈するか、少なくとも三者は手がつけられないくらいに混同された。

〈蜥蜴殺し〉は、量子コンピュータの脳を持ち、プラチナ合金の筋肉で駆動する全身義体の男ではない。揺るがぬ力学の法則にしたがって運動し、その合成成分が化学的に確定できるひとりの人間ではないのだ。

〈蜥蜴殺し〉は神なのである。




地面を撫でるように風が吹いていた。誰かここに来た者がいる、とユーリムはすぐにわかった。砂の上に真新しい足跡があった。あの警察官の気が変わったのだろうか?

薄汚れたビニールの切れ端が、容赦ない日差しを浴びせる太陽への降伏の白旗のようにメスキートの枝に引っかかってはためいている。ユーリムは斜面をくだって、あえて谷底の埃っぽい空気を吸い込んだ。
急に疲れを感じた。アリゾナはこういう土地なのだ。砂漠、風、雲。灌木と熱波。枯れた川に一人。

ユーリムは砂漠をゆっくりと時間をかけて見わたした。そうすれば幽霊が砂埃の中から浮かび上がってくるかのように。そうなのだ、と彼は思った。おれは幽霊を探している。実在する殺人犯を追いかけるべきときに。


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