Cypress / 鏡のサイプレス

つねにサイプレスのそばで仕えていた修道士は全身の皮膚がぶよぶよとふやけていて、眼窩、歯肉そして鼻からは絶えず血が出ていた。それでも状態は安定している。それも一週間かせいぜい二週間だろう。その後は症状がぶり返す。これまでよりもっとひどく、死が駆け足で容赦なくやって来るまで。


Fighter-Bomber

Fighter-Bomber

Fighter-Bomber

Fighter-Bomber

Fighter-Bomber

 200X年6月から8月の間にマルセイユから追加の巡礼 ―すなわち兵力― が東海岸の主要湾港に到着する。主として東欧からの難民である。輸送船1500隻、護衛船27隻に騎士こと上級再造人4、歩兵1万、非武装民間人8万。遠征はここで戦略的なものから社会的なものに代わる。過密地帯欧州より合衆国東部へ民族移動が行われたとみることもできよう。軋むように始まった侵攻に混乱し、ただでさえ統制のとれない合衆国側にとってこの量に抗すべきものはない。老人でさえ犬死にしないために戦い、そしてかれらの足跡には夥しい数の死体がすでに横たわっている。特に〈鏡うつしの騎士〉ら時間の概念と自己意識が欠如した最新型義体〈上級再造人〉の活躍はめざましく、かれらの戦闘は常に直接的で回避不可能、かつ劇的であった。かれらは昼夜なく敵の只中に突撃し、剣を血で染めながら四方で首や手をはね、鋼で守られていない敵の臓腑を八方に撒き散らしていた。
 同年11月、ニューヨーク堕つ。合衆国側の頽勢蔽いがたく、大統領行政府は浮足立ってD.C.を捨てる。かのホワイトハウスや連邦議会議事堂は略奪され、徹底的に汚される。ここでアヴィニョン教皇が表明した二つの目的のうち一つが達成された。もう一つの課題である核の恐怖からの開放、核発射コードとミサイルサイロの確保は非常に部分的にしか達成されていない。




 そのとき、西に強烈な光があがった。それは地を満たし、天まで達し、そして目にしたすべての兵士の魂にも達した。爆心地のシカゴでは数万人の死者。その後さらに数十万人が死に誘われ、踊りながら暗い穴に消えていった。それから先は理解するにはあまりに抽象的すぎる警告。「雨」「風向き」「冷静さを保つこと」。
 その後まもなくして疫病 ―身体の肉がぐずぐずに腐敗し、生きながら朽ちていく病気― が野営地を襲った。この病気はそれに罹った者の内臓から歯茎へ皮膚へと外側に進行していった。そして誰もこの病気から免れることはできなかった。血の混じった汚物が死の兆候で、その者はやがて死んだ。全身義体の兵士も例外ではなく、生身を残した脳や血が腐って死んだ。死ぬ以外に、もはや何もできなかった。この病気は知る限り全軍に広まった。我々の兵士の喉に死んだ歯茎のかけらがはり付き、窒息しないように医師たちはその死肉をスプーンで掻き出さなければならなかった。野営地で身体が崩れていく人々が苦痛に呻くのを聞くのは耐えられないほど辛かった。
 こうした症状はいろいろと噂された。悪魔に魂を奪われ、その人がその人ではいられなくなったから生きたまま崩壊するのだと。または真逆に、我らは罪深きゆえ神に罰せられたのだと。ほとんどの人にとって、放射能は理解しがたいことだった。
 騎士たちはこの病と無縁だった。設計者はおそらくこうなることを予期していたのだろう。それでもサイプレスの内側では、偉大なる死者たち(主よ、彼らは本当に死んでいるのか?)からうつされた病のように、崩壊が急進していた。


Home
Back